耐震設計は災害とともに進化する
構造物の形状、材質、内部構造を決定する上で欠かせないのが耐震設計の考え方です。通常考えられる状態(地盤の強度、構造物そのものの重量、人や自動車等の荷重、風から受ける荷重等)以外の、時には想定外の方向から、想定外の周期で襲いかかる想定外の力・・・。
道路橋の耐震設計は、過去に発生した地震による被害の経験・研究によって整備され、改定を重ねてきました。最初に耐震設計が規定されたのが1926(大正15)年で直近の大地震は1923(大正12)年の関東地震(関東大震災)です。その後の耐震設計の改定は1964(昭和39)年の新潟地震、1978(昭和53)年の宮城県沖地震、そしてまだ記憶に新しい1995(平成7)年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2011(平成23)年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による被害等が主な契機となっています。
これに伴い橋梁の耐震設計を定めた「道路橋示方書・同解説」(日本道路協会)が改定されていきます(最近では1996年、2002年、2012年、2017年)が、地震は毎回その震度や地震の規模を示すマグニチュードの大きさだけでなく、プレート境界型、内陸直下型などの「地震の型(地震の原因の違い)」があり、どの型の地震にも耐えうる構造物を設計しようとするとただ力の大きさを変えるだけではなく、従来とは全く異なる解析方法を追加して検討を行い、両方を満たすものでなければならなくなります。
こうして構造物の設計がどんどん複雑になっていきますが、同時に電算技術の進歩によりパソコンを使用して複雑な解析が短時間でできるようになりました。
耐震設計は、こうして災害を教訓に進化を続けているのです。
昔の基準で作られた橋は・・・
新しく作られる構造物は、その時の基準に合わせて作られるので問題は少ないのですが、昔からあるものはどうすればよいのでしょうか?
・昔の基準で作られたものだから今の基準には合わないのは仕方がないので、そのままにする
というのでは安全性に問題がありますし、
・今の基準に適合しないのでは問題があるので取り壊して新しいものを作る
というわけにもいかないので、昔の基準で作られたものをできるだけ今の基準に適合するよう補強(または改築)する ということになります。
しかし前述のとおり、地震には異なった「地震の型」があります。例えば平行にゆらゆらと大きく揺すられるような地震、小刻みに震えるような地震。かと思えば上下に突き上げられるような地震・・・ どれにも耐えられる補強方法を考えるのは容易ではありません。
強ければよいというものではない?
橋脚を補強する場合を考えてみます。兵庫県南部地震の時、阪神高速神戸線の橋脚が中間で折れ曲がり、高架橋が長い区間にわたり落下してしまいました。昔の基準では中に入っている鉄筋が少なく、地震の揺れによる変形に耐え切れず折れてしまったと考えられます。そこで、変形性能(粘り強さ)を増すために橋脚のコンクリート周囲を鋼板で巻いて補強することになりました。形状が複雑で鋼板でうまく巻けない場合や川や海の中の橋脚で鋼板で巻くのが適さない場合(錆びる恐れのある場所など)は、多くの鉄筋を建て込んでコンクリートで巻く(=囲む、くるむ)方法がとられますが、この場合は橋脚が太くなるため、河川の場合は洪水の際に水の流れを阻害しないかなどの検討が必要となります。
最近では鋼板に代わり炭素繊維シートで補強する工法や、コンクリート巻立てをできるだけ薄くするため、特殊なモルタル(PPモルタル等)で巻立てする工法もあります。
コンクリート巻立てについては、追加する鉄筋が少なくても代わりに比較的安価なコンクリートで大きく囲めば強くなるような気がしますが、変形しにくい(剛性が高い)ものになるものの、粘り強さ(靭性)はあまり向上しません。また、重量が大きくなるため地盤や杭に悪影響を及ぼします。バランスの良い補強が必要で、ただ強ければよいというものではないのです。
橋脚補強前・補強後(PPモルタルによる巻立て補強)
耐震設計の目的は
地震が発生した後、構造物が無傷であればそれに越したことはありません。しかしあらゆる被害を想定して対策することは困難で、コストも膨大となります。このため部分的な損傷は仕方ないとしても、橋の機能そのものを失うことがないような補強をします。例えば、橋が壊れて路面に段差が発生した場合、段差を最小限に抑え、そのままの状態または簡易な補修で緊急自動車の通行を可能にできる程度の損傷にとどめる ということになります。
橋に設置する耐震構造物(「落橋防止システム」)の代表的なものは上図のようになっております。地震が発生した時に、上部工が下部工から外れて落下することは絶対に避けたいところです。
地震が起こるとまずは「支承」や「水平力分担構造」のストッパーが働きます。そしてこれらが壊れて大きくずれが発生した場合にも上部工が落下しないよう、下部工の沓座面を広く確保しておきます。更に、長い橋や複雑な構造の橋の場合はケーブルやチェーンなどの「落橋防止構造」を設置して落下を食い止めるようにします。そのような構造を「道路橋示方書」に従い計画・設計していきます。
落橋防止チェーン(旧型)・緩衝チェーン(現行)
また、上部工が下部工から落下することが防止できても下部工自体が破壊するようでは意味がありませんので、こちらは前述の方法で橋脚補強などを行います。
こうして既存の古い橋でも、上部工と下部工、さらには地盤や杭などの基礎に至るまでシステム的に、できるだけ現行の基準に合わせるように補強しております。