株式会社MAEDA-OFFICE
土木構造物点検・補修・補強設計

橋は「作ったらおしまい」ではない

 現在、国内には73万橋もの道路橋があります。(2014年度・橋長2m以上の橋・国土交通省HPより) ではこの中で建設後50年以上経過した橋梁はどれくらいあるのでしょうか?
 実は2018年現在約25%あります。そして今後老朽化した橋梁の割合が急激に高くなると予想されています。
 但しこれは橋の箇所数による割合であり、長さや面積によるものではないため実感が沸かないかもしれません。最近建設されている橋梁は、都市部のバイパスや高速道路等の新設に伴うもの、主要道路の老朽化や線形改良に伴うものが大半であり、地方の生活道路の橋梁まではなかなか予算が回りません。
 しかし、2012年に中央自動車道笹子トンネルで発生した天井板落下事故を契機に、橋梁やトンネル、標識類等の構造物点検を5年毎に行うよう法整備され、その成果により様々な構造物に補修が必要な損傷が見つかりました。これらは損傷の程度によりランク付けされ、重度の損傷では通行止めや早急な補修が求められます。軽度のものは5年後の次回点検までに補修をするか、経過観察となります。

 そう、これは人間ドックと同じ。まさに「橋の健康診断」です。

高所作業車 高所作業車

橋梁定期点検とは

 5年毎に行う道路橋の点検では、「道路利用者や第三者への被害の回避、落橋など長期に渡る機能不全の回避、長寿命化への時宜を得た対応などの橋梁に係る維持管理を適切に行うために必要な情報を得る」(「橋梁定期点検要領」(平成31年3月 国土交通省 道路局 国道・技術課))ことを目的に実施されます。
 この点検自体は「橋梁定期点検要領」に則って行われるのですが、点検方法として「近接目視を基本とした状態の把握」という文言があります。端的に言えば「近づいて細かいところまでしっかり見なさい」ということですが、これが現実的にはなかなか難しいものです。

 まず、路面。ここには自動車が走行する車道や歩行者が通る歩道の舗装、防護柵や高欄(欄干)、中央分離帯、道路標識や道路標示、照明柱などがあります。これらは交通規制すれば点検は可能です。では、下面(道路の裏側)や橋脚にはどのように近づけばよいのでしょう。

 橋の下が更地や小さな浅い河川の場合はそのまま点検が可能であったり脚立やはしごで点検可能になる場合もありますが、それでも届かない場合は高所作業車や橋梁点検車を使用します。水面に近い場合はゴムボートを使用することもあります。これらを使用できない狭い橋、極端に水面から高い橋、通行規制できない橋の場合はロープアクセスという手段もありますが、それ以外にも鉄道や高速道路上に架かる橋、河川に架かる橋で予め足場を掛けなければならない場合等のように、許認可が複雑な場合や作業時間が深夜に限られる場合もあり、現場状況は様々です。

 現在では基本原則である「近接目視」に代わる技術の開発が進んでいます。究極的には人間が鳥のように自在にどこへでも飛んで行って目視できればよいのですが、その代わりにカメラや調査機器を積んだドローンを飛ばして点検するなどの方法です。

 予め下調べをして、どのような方法で点検を行うか、そのための準備では何が必要か、予算は? 実施時期は? 様々な検討や打合せのあと、ようやく点検の実施となります。

橋梁点検車 ボートによる点検

橋梁点検車・ボートによる橋梁点検

橋梁点検の現場では

 現場作業はとにかく安全第一です。まずは交通規制(車線規制、片側交互通行あるいは全面通行止め等)を行い、安全が確保されてから現場に入ります。決められた手順に従い、詳細に寸法計測、損傷や変状のチェックとメモや写真撮影などの記録を行っていきます。あるときは詰まった土砂を掻き出し、またあるときはコンクリート表面やボルト類をハンマーで叩き、端から端まで見落としなく確認します。一部を除き、やり直しが効かない作業でもあり、交通規制が長くなることもありますが、大切なインフラを維持していくために不可欠な作業ですので、皆様のご協力をお願いいたします。

KY活動 交通規制

KY(危険予知)活動・交通規制

橋梁点検結果の記録

 現場での作業が終わると次はパソコン上で点検調書を作成していきます。点検調書の仕様や作成方法は自治体等により異なりますが、予め準備された書式(表計算ソフトMicrosoft Excel等)にページごとに入力する方式と、専用のデータベースソフトから各情報を入力する方式があります。橋の長さや幅員等の情報は文字入力し、現地の状況や損傷の画像はサイズを合わせて貼付けし、橋梁の形状、各部材の記号の定義、損傷箇所と状況を示した図はCADソフトで作成後、画像に変換して貼付けします。
 最終的には1つの橋ごとに数ページずつのA4サイズの帳票が出来上がります。これをデータや紙書類でとりまとめて完了となります。

次回の橋梁点検までに

 点検結果を基に、今後の対策が決まります。重度の損傷の場合は通行止めの措置が取られ、補修または橋の架替え、あるいは廃止が決定されます。直ちに補修するまでもない軽度の損傷の場合は経過観察となります。その中間の損傷の場合は、損傷程度に応じて直ちに~次回点検(5年後)までに補修となります。今後同様の点検・補修を定期的に繰り返せば、大事に至る前に対応することができ、当初の「道路利用者や第三者への被害の回避、落橋など長期に渡る機能不全の回避、長寿命化への時宜を得た対応」という目的が達成されることとなります。